2017.11.19
7792文字 / 読了時間:9.7分程度
帽子の中のふにゃふにゃな歴史

肝臓探し

 蜀滅亡後、西暦二六三年冬の午後……。
 涪の城内の一室の窓辺で、鍾会は姜維に「自分は劉備くらいにはなれるだろう」と語った。
 この時窓の外では、雪がちらほらと降っていたようである。

  🍺

 まだ生きていたころ、鍾会ははたしてどのような人物だったのだろうか?
 鍾会は、身につけるものにはかなりの拘りを持っていることは伝わるにしろ、中肉中背で血色がよい以外取り立てて特徴のないといった容姿の持主だった。
 また、当年三十九歳、年があけると四十歳になるということを本人は気にしているのか、そのことについてすでに何度も姜維に語っていた。
 そんな凡庸といえは凡庸な外見の持主の鍾会ではあったが、窓の手前で腕を組んだ姿勢で立ち、外の景色に視線を投げかけながら、話し相手の反応についてはまったくお構いなしに、先程からただ自分の話したいことをずっと話し続けていた。
 とはいえこの件に関しては、相手の反応にかかわらず自分のしたいように行動しまた語るというのが彼の人生の中においてすでに彼自身の譲れない拘りの原則にもなっていたという事情を考慮する必要もあるかもしれない。
 ともあれそのような状況のなか、姜維のほうはといえば、特に口をさし挟むわけでもなく黙ったまま椅子に座り、鍾会の横顔の輪郭をぼんやり見上げながらその途切れることのない声の抑揚に耳を傾けていたのであるが、そこで鍾会の腕は人よりかなり長いということに気づいた。
 さらにまた鍾会は、左耳だけではあるが、人より大きな耳を持っているということにも気がついた。
 なぜ姜維はそのような点にこだわったのか?
 長い腕と大きな耳というのは、蜀を建てた劉備のよく知られている身体的特徴である。要するに姜維は以前から劉備に関心があったために、その意外な類似が気になったのである。
 そこで姜維は考えた。
 ――なるほど、鍾会自身が劉備という名前を口にするまで、彼らのあいだに共通点があるとは思いもよらなかった。それにしても鍾会の場合片方の耳だけ異様に大きいというのはもう少し早く気づいてもおかしくはなさそうでもあるが……。
 そこで姜維は鍾会に、その左耳はもとからだったかと尋ねた。
 すると鍾会は指先で自分の左耳を触りながら、――確かにむかしから多少は大きかったがここ数年ますます片耳だけ伸びてきたので、こうなったらちょうどいいからいっそ耳飾りでもつけようかと検討中だ――といったことを答えたのだった。
「なるほど」
 姜維は鍾会にそれだけ答えると、すぐにまたもとの話題に戻って喋りだした鍾会の言葉を音楽のように聞きつつ、鍾会が劉備になるとはどのようなことを意味するかについて、しばしの間思いを巡らせるのだった。
 ――晩秋、雀が海に潜って蛤になるように、もしかすると鍾会が劉備に変化するということはないだろうか。そうやって現代に再登場した劉備は、なんと言うだろうか、どんなふうに振る舞うだろうか?

  🍺

 年が明けて、264年の正月もなかばを過ぎたころ。
 姜維は鍾会の乱に参加し、鍾会らとともに魏の兵士によって殺された。
 死後、姜維の死体から抜き取られた肝臓は一生升ほどの大きさだったという。

  🍺🍺🍺

 姜維は死後、幽霊となってしばらくぼんやりとした精神状態で成都の街をさまよっていた。
 ぼんやりしていたというのは、死体がばらはらにされたため、幽霊となった霊魂もまた虫食いのように欠けているところが多かったためである。
 やがていつしか、姜維は満開の桃の木に囲まれた民家の前を通りがかった。
 姜維は足を止め、中の様子を伺った。
 正方形の庭の中央にまた正方形の木製の机が据えられている。
 机の上には箱に詰められた様々な料理が並べられ、その周囲を複数の酒壺、酒器が取り囲んでいた。
 机の傍らには人が二人、顔ははっきりとは見えないが華美な服装の男が一人、それから対照的に地味な書生風の服装の男が一人、銘々椅子に座ってなにやら談笑していた。
 姜維は気配を消しつつ、二人の会話に耳を澄ました。
 ――まあ、亡霊になって以降、隠れようとしなくてもどのみち気づかれないことのほうがほとんどだが……。
 時折庭のなかから生ぬるい風に乗って、桃の花びらが姜維の顔の上にも降り掛かった。
  *
 庭の中の二人の人物の会話の話題は多岐にわたっていたが、しばらくすると書生風の男は酔いが回ったらしく机の上に突っ伏して眠りこんでしまった。
 しばらく静かな時間が経過した後、派手な服装の方の男が、うっかり箸を落としたらしく拾おうと地面に腕を伸ばしかがみ込む動作を行った。
 姜維はその腕の長さに感心したが、次の瞬間、その顔を見て驚いた――それは、自分と同様つい最近魏の兵士に殺されたはずの鍾会の顔のようにみえたからである。
 そこで姜維は、自分が亡霊になって成都をさまよっているなら鍾会もまたそのようにしていても全然おかしくないはずだと考え、姿を隠すのをやめ、声をかけた。
「やあ、鍾士季じゃないか。こんなところにいるとは思わなかった。君も亡霊になっていたんだな」
 すると話しかけられた男は姜維の方を振り返ったが、すぐに人違いであることに気づいた。腕や耳の長さ等身体的な特徴に共通点はあっても、なにより雰囲気がまったく異質であったからである。
 その多少鍾会似の男は、姜維と目があうと穏やかな口調で尋ねた。
「私は鍾士季ではないが、君は誰かね」
 この声や話し方はどう考えても鍾会ではないと姜維は確信しつつ、尋ねられたので名前を名乗った。

  🍺

 姜維が名乗ると、男は自分は一時的に復活した劉玄徳だと名乗った。また、もう一人のいま机に突っ伏している男は仙人となった徐庶だとも語った。
 それから姜維は促されて、あいている椅子に腰をおろした。
 そうして、
「一時的なのですか?」
 と尋ねると、劉備は、
「今回私が許可された現世への滞在期限はあまり長くなくてね」
と、ため息をつきながら答えた。
「なるほど、そういうものですか」
「うむ、短すぎるね」
 劉備は悲しげにそうこぼすと、器に残っていた酒を一気に飲みほした。

  🍺

 姜維は劉備の向かいの席に腰を下ろし、劉備の顔の造作を確認していく。
 劉備は鍾会と違い、左右両方の耳が両方とも長かった。――しかし、その違いが何を意味するかわからなかった。
 劉備は腕を伸ばして酒壺を手に取り、再び空になった自分の酒器に酒を注ぎ足していく。
 それから自分を観察している姜維の視線に気づくと、笑いながら問いかけた。
「姜伯約君だったかな、まあ君も好きに飲み食いして行けばいいだろう。ここにある飲食物はすべて死人向けだから、君の口にもきっと合う。死後、何かちゃんと食べていたかね。あまり顔色も良くないが」
「確かに多少ふらふらしている自覚はあります。ただ、どうやら死体から内臓を抜き取られたのが悪いのか、この幽鬼の身体の内臓のあたりがどうにも多少空洞になっているような気がするのですよ」
「そうか。まあ死者の飲食は臓器が欠けていても問題がないようにできている。そうでなければ困るような死者はたくさんいるからそう言う仕様になっているんじゃないか、多分」
「なるほど。確かに焼け死んだりとか?」
「だろう? だからそっちの方を片付けてくれ。遠慮する必要は全くないから」
 劉備は隣の机の上を指差した。そこには同じような料理の入った箱や器がいくつも並んでいた。
 なぜこんな無意味なほどに料理があるのかと姜維が訝しんでいると、劉備はそれを察したかのように、
「……つまり、元直が今回の宴会用に大量に用意したのはいいが、手違いで雲長(関羽)たちは今月は来る許可がでないことがわかってね。それでしかたなく元直と二人で、我が国の送別会を開いていたわけだが、二人ではやはり一向に片付かない」
と、事情を解説するのだった。
「そういうことでしたら、遠慮なくいただきます」
 言葉通り姜維は遠慮なく大皿に箸を伸ばしたが、その先にあった料理は、おそらく生姜風味の肝臓料理だったのではないだろうか。
「うむ、頑張ってその調子で残り全部を片付けてくれ。元直はすでに酔い潰れてしまったし、こうなったら君だけが頼りだ」
「陛下ご自身でも頑張ってくださいますよう」
「うむ、無論だ」
 そういうと二人は黙々と目の前の飲食物を片付けはじめた。

  🍺

 やがて、劉備が再び姜維に話しかけた。
「いい加減限界だ。あとは君に任すよ」
 劉備はそういうと、箸を転がして大きく伸びをした。
「それはそうと、君は酒は飲まんのか? まだ大量に酒壺が残っている。益徳(張飛)が来るはずだったから、ひどい残りようだ」
「それですが、私は酒はもとは苦手なわけでもなかったはずですが、いまは匂いを嗅ぐだけで、死にそうな気分になります。やはり失くした臓器の影響かと考えているわけですが」
「失くした臓器は?」
「肝臓でしたね。どうやら、衛伯玉(衛瓘)の奴が自作の薬にするためにくすねたようで」
「なぜわざわざ君の肝臓なんだ?」
「彼は、生薬の素材について目利きなんだとか、以前鍾会がだいたいそんなことを話しておりました。とはいえ百万人に一人の名臓器とか言われても嬉しくもなんともないものですね」
「まあ、それはそうだろうなあ……」
「ええ」
「なるほど。臓器がなくても飲食な可能な死者は多いかもしれんが、とはいえそれはすべての死者がそうだということでもない、か。もう一度酒を楽しむために肝臓が必要というのなら、やはり探してきたほうが良いかもなあ……」
「私もそう考えております」

  🍺

 桃色の桃の花の奥から鳥のさえずりが間断なくこぼれ続けている。
 その響きのなかには時折不如帰の鳴き声も混ざっていた。そのため姜維は不如帰の故事――古の蜀王杜宇が変化したのが不如帰だという伝説がある――を思い浮かべつつ、不如帰が庭に来ているらしいと劉備に告げた。
 だが劉備はかなり酔いが回った口調で、ただ、
「……ああ、私が鳥の違いでわかることといえば、鶏肉のもも肉と胸肉の違いくらいだ。あとは鶏と雀の肉の違いくらいか? 君はいろいろ物知りだなあ……」
と、いかにも興味薄そうな反応しかみせなかったので、姜維はそれ以上鳥の話をしてもしかたないだろうと判断してそれ以上続けなかった。
 劉備はすでにかなり飲んでいたが、それでもまた新たに決意を込めて酒壺の蓋を開けると、やおら自分の盃に注ぎ、それからまた姜維に語りかけた。
「それにしても、二人で黙りこくって、鳥のさえずりと徐庶のいびきに包まれながら、しんみりしていても辛気臭くてしようがない」
「それもそうですね」
「だからもっと盛り上がる話をしよう」
「それは良いお考えかと存じます」
「うむ。というわけで蜀の話も聞きたいが、てっとり早くまず阿斗(劉禅)の悪口で大いに盛り上がろうじゃないか」
「陛下。そうは仰りますが、私といたしましては仕えた主の悪口はあまり気乗りしませんな」
「まあ、如才がないことは生きていく上で必要なことだし、良いことだ。とはいえ多少自分に素直になるのもそれはそれで楽しいことだと思うが?」
「誰が楽しいのです?」
「はたで見ている私が」
「なるほど」
 そうして劉備がしきりに笑いつづけるので、姜維もそれに調子を合わせるのだった。

  🍺

「それはそうと、いつまでこちらにいらっしゃるのです?」
 それから姜維が、気になっていた疑問点を尋ねると、劉備は身を乗り出すようにして答えた。
「いやそれが今日までなんだよ。今月一杯という話でね、正月末日の今日で終わりというわけだ。まあ、戻っても快適といえば快適なんだが、それでもこうこっちの世界には愛着がないといえばそれは正直な感想とはいえない。もう少し時間があればやりたいことは色々あったのだが、十二日というのは、元直の宴会に付き合ったせいもあるが、あっという間だね」
「十二日ですか」
「君が鍾会と一緒に殺された日からとちょうど同じ日数でもあるな」
 劉備は指を折って、律儀に十二まで数えてから言った。
「確かに、おっしゃるとおりですね」
「君は先程私を鍾会と見間違ったが、それも理由のないことでもない。――晩秋、雀が海に入って蛤になるように、鍾会の死の一部は劉玄徳の再生に変化する。彼はそういう天数に生まれついていたのだ」
「なるほど」
 劉備は鍾会の天数について、生前に姜維が考えたのとまったく同じ文言で説明したので、姜維は確かにこの現象は天数あるいは天数的な何かなのだろうと納得した。
「と、徐庶がこのあいだ説明していたよ。彼も酔っ払ってなければ、あるいはせめて起きていれば頭のいい男なんだがなあ……」
 劉備と姜維のどちらも黙ると、徐庶の寝息といびきだけが交互に周囲に響き渡る。
 劉備は肩をすくめた。
 それを見て姜維は、劉備という人間は細かい動作や仕草の在庫がひどく豊富な人物なのだなと思った。
 それから再び劉備が椅子の片一方の肘掛けにもたれながら話しはじめた。
「やはり、あの馬鹿息子の罵倒をしよう、心ゆくまで。ここに君が来たのも我々同志を巡り合わせる運命だったに違いない。天数縛りのせいで奴を殺せないの無念だが、それでもせめて全力で地面に叩きつけるくらいのことはしてやりたいと思いついて、この間、劉禅を訪ねたんだ」
 姜維の脳裏に、赤子を地面に投げつける劉備の動きがぼんやりと浮かび上がっていく。
 「そうだったんですか」
 羅貫中が後にこの時の劉備の願いないしは姜維の白昼夢をどこかから拾い上げて後に叶えたという可能性は高いが、それはまた別の話である。
「ところが、あいつは邪悪な巫女を常時そばに置いているせいで、近づくことさえできなかった」
「おや、あの巫女はてっきりただの詐欺女だと思っていたのですが、そういうわけでもなかったのですか」
 姜維は劉備に尋ねた。
 劉備は机の上に肘をつくと、忌々しげに劉禅と巫女の話を続けた。
「詐欺師のほうが全然ましだ。そうだったら私の邪魔をできるわけもないからな。この腹立ち、鬱憤、悲しみをどこにぶつければいいだろう」
「確かに」
「そこで私はひらめいたのだ。――ただ酒あるのみ。とな」
「それは、曹操の詩―― 《 酒に対しては当に歌うべし、人生幾何ぞ たとえば朝露の如し。去りし日ははなはだ多く、慨してまさに以て慷すべし。幽思は忘れ難く、何を以て憂いを解かん、唯だ杜康(酒)有るのみ》――に関係ありますか、ひょっとして」
「まあ、使えるものは他人のものも積極的に使っていきたい、それが私の方針だ」
「そういうものですか。ただ、私は個人的には曹操が嫌いなんですよ」
「なるほど、だから、うちに来たんだな……。そういう連中はこの国には大量にいる。いや、阿斗のせいで国は滅びたから、大量にかつていた、というべきか。――我々のことは今や、すべて過去の出来事でしかない。我々はすでになかば書物の中の住人も同然だ。雲長がよく読んでいた〈春秋左氏伝〉、あれらの中に登場するよく名前も覚えられないような、時々誰かと誰かを入れ違って覚えているような、そんな影の薄い者たちと同様の存在でしか……そうだ、姜伯約、君は范武子と范文子の違いをすぐに答えられる側の人間かね」
「その程度でしたら、まあ……」
「ふむ、そうか……」
「もしかして、陛下に同意しておいたほうがよろしかったでしょうか?」
「いやべつにそんなことはない。阿諛追従は、するほうも虚しいが、それを聞く方も、まあ特殊な趣味でもなければ充分虚しいだけのものだからな」
 それからしばらく二人は、劉禅の話や、政治の話、またさまざまな思い出話などを続けた。

  🍺

 夕暮。
 姜維は、ようやく目が覚めた徐庶から、行方不明になった自らの肝臓を取り戻せば、このふわふわとあるいはぼんやりとした亡霊状態を終わらせることができると教わり、失われた肝臓を探しに行こうと考えた。
 それから帰り際に姜維はたまたま庭に在った鏡を何気なく覗き込んだが、それによるとどうやら幽霊になっている状態の今は随分若返って見えることに気づいた。
 姜維はしばし鏡の中を見つめながら考えた。
 もし生前自分がこの若さを保っていたら兵士たちと格闘しても死なない展開になったのだろうか、また様々なことは今とは違う結果になっていただろうか、あるいはあるいは現実は五六人しか手づから殺せなかったが、その数を何倍かに増やすことはできただろうか? ――等々、といったことをである……。

  🍺🍺🍺

 肝臓探しの旅の末。
 姜維は肝臓があるはずの洛陽に辿り着いた。
 到着した頃にはすでに季節も進んでいて、より春らしい景色になっていた。あちこちで花が咲いたり蝶が飛んでいたりしたが、そんな洛陽の街のなかを姜維はしばらく歩き続けた。
 できたら生きているときに蹂躙したかった都である。それを思い起こすと、彼にしてはいささか感傷的な気分にもなったが、それも目の前に猫が現れたあたりでそれらもみな陽炎のように消え去っていった。
 日が暮れかかっていた。
 猫は路上に座ったまま影を伸ばしつつ、目で姜維の姿を追い続けていたが、その猫も通り過ぎて歩き続けた。
 それにしても、洛陽は古い都なだけあって、様々な亡霊も住み着いていた。
 姜維はそのうちの何人かと会話をして肝臓探しのための情報収集を重ねていったが、その中でちょうどいま街の外れでは謀叛人鍾会の死体が展示中だと言うことを知り、立ち寄ってみようと思いたった。

  🍺

 春の若草と残雪に囲まれて、だいぶくたびれていたが、鍾会の死体は晒されていた。
 その傍らで、鍾会の亡霊がぼんやりとしているのが見えた。
 一度も見たことのないようなかなり悄然とした生気のない顔をしていた。とはいえ状況を考えればもっともだ、と姜維は考え直した。
 ただ最後に会ったときには相変わらず長かった左耳が普通の大きさに変化しているのを見て、理由が気になった。いろいろ訊いてみたいこともあり、姜維は声をかけたが、近づいて目の前でよく見えるように腕を振ってもなんの反応もなかった。
 おそらく何も見えないし聞こえないのだろうと考え、諦めて立ち去った。

  🍺

 姜維の死体から抜き取られた肝臓は、最終的には衛瓘が回収し、彼は生来病気がちだったから煎じられ薬とされた。
 その一部は、最近体調の優れない司馬昭に献上されたが、司馬昭は表向きは衛瓘に感謝したものの、内心では気味悪く思い、そのまま庭に埋めてしまった。
 姜維が洛陽にやってきたのはその後のことである。
 司馬昭邸の庭まではたどり着いたものの、地面の上のミミズをくわえている鶏くらいしか回収することはできず、しかたなく姜維は鶏を連れて帰るくらいしかできることはなかった。

 ほぼ原型を留めなくなった肝臓が探し出せるわけもなく、姜維はしかたなく沓中に戻った。
 それから、そこに自分の廟を建てつつ、これからやることを考えた。

(かん)

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